風 たより
〜 第 6 回 〜

平成20年11月03日


風が吹き 風が語る、花々に、

    どんなに苦しくても、苦しいときほど、

笑顔を忘れずに、自身の心をかくし、涙をかくし、

    いつの日かを忘れることなく、その日の訪れを

………必ずその日がくることを。




自衛権なくして国を守れるのか

 今年は戦後63回目の終戦記念日を迎えました。私はいつもこの日、靖国神社に参拝していますが、ある時期から今時大戦に関することについて思いを巡らせております。しかし今年は、北京オリンピックもあって、中国の動向からも目を離せず、今年は集団的自衛権について考えてみました。しかしそれにしても中国の発展ぶりには驚いています。中国というと未だに意識の上では人民服と自転車姿が思い浮かんでしまうものですから、その発展ぶりを見せつけるような「開会式」の演出には目を瞠ってしまいました。10年前に一度だけ北京・西安を旅したことがありますが、映像で見た北京の様子は当時と比べて見ても段違いです。つくづく中国を侮ってはいけない。そう思ったものでした。


 今年3月のことですが、米太平洋艦隊のキーティング司令官が訪中の際に、中国海軍高官から「太平洋を東西で分割し、ハワイ以西の海域を中国が管理するのはどうか」という提案を受けたことを、議会で証言したことがありましたが覚えていらっしゃるでしょうか。この人は昨年5月にも「中国の空母建設に米国は手を貸す用意がある」(『異形の大国中国』桜井よしこ)などと、実に能天気なことを申しておりますが、このときも中国高官の提案を、本気で言った発言であるとは思っていなかったのだそうなのです。しかしそれはあまりにも中国に対する認識が甘すぎると思います。


 中国の海洋戦略が、台湾を手にいれ、南シナ海、東シナ海から一挙に太平洋に進出し、西太平洋を挟んで米国と対峙することにあることは、つとに専門家も指摘してきたことなのです。しかも中国はこの20年間、軍事費を二桁以上膨張させてきているのです。今では米国、イギリスに次ぐ世界第三位です。その上中国はその内訳をほとんど公表していません。海外からの兵器調達費や研究開発費などはこの中に含まれていないのです。実際の軍事費はこの二、三倍に上るでしょう。中国はこのような猛烈な軍事路線に邁進してきました。中国海軍高官の提案を本気にしない方がおかしいと思うのです。


 一昨年中国は、米海軍の空母キティーホークの8キロ以内に気付かれずに原子力潜水艦を接近させて急浮上し、至近距離から攻撃できる力を見せつけたことがあります。昨年1月には地上発射の弾道ミサイルで、860キロ上空の人工衛星の破壊も成功しています。さらに11月には、中国の軍艦と潜水艦が、キティーホークを中心とする空母機動部隊と台湾海峡の、中台中間線を挟んで睨み合い、一歩も引かぬ気構えを誇示したこともありました。中国は着実に戦闘能力を高めています。だからと言って、現時点で中国が西大西洋を支配する程の軍事力を装備しているわけではありません。しかし外洋型の海軍を目指し、軍艦や潜水艦の行動範囲を拡大し航空母艦の製造と新鋭潜水艦の建造に拍車をかけていることは間違いないのです。中国海軍高官はけして嘘や冗談を言ったわけではないでしょう。甘く見るわけにはいきません。


 国が西太平洋を管理すると言うことは、台湾を奪い、朝鮮半島を手中にし、日本を支配することと同じです。実際中国は、東シナ海でも急速に軍事力を高めています。すでに、04年には原子力潜水艦で日本の領海を侵犯し、05年にはガス田海域に軍艦五隻を出動させて日本を威嚇しました。空軍機による南西諸島周辺への偵察飛行も活発です。中国は南シナ海で、西沙諸島をベトナムから奪い、南沙諸島をフィリピンから奪ったように、東シナ海では、日本の尖閣諸島を力づくで奪い取ろうとしていることは明白です。中国海軍高官の発言は、日本こそ軽視してはならないと思います。もしここで日本が、中国の野望を許してしまえば、後々日本人は中国の脅威にさらされつづけ、苦難を強いられることは必定です。そうなっては手遅れです。早急に対策を講ずるべきでしょう。私は日本がまずやるべきことは、集団的自衛権の自縛を解いて、その見直しをはかるべきだと考えています。そして日米共同の対処能力を強化すべきでしょう。いかに日米同盟があろうとも、日本が集団的自衛権の「行使」を否認していたのでは、日米共同の防衛力を発揮することなどはできないのです。


 それなのに何故国連が全加盟国に認めている集団的自衛権を、日本だけが「その権利を行使することは許されない」との奇妙な解釈で、自らに縛りをかけてきたのでしょうか。実に政府は子供じみたことを申し立ててきたものです。そんなことで本当に日本を守れると思っていたのでしょうか。オメデタイ民族です。「平和ボケ」とはこういうことを言うのでしょう。仮に中国から日米両国が武力攻撃を受けたとして、そのとき「米国への攻撃に対し、自衛隊が応戦することは集団的自衛権の行使にあたり、できない」などと言ったらどうなるのでしょう。日米同盟が根幹から崩れてしまうことは、火を見るよりも明らかではありませんか。シーファー駐日大使も「北朝鮮が米国にミサイル攻撃しようとした場合、日本が集団的自衛権の問題で上空を通るミサイルを打ち落せないというのであれば、米国民の気持ちは変わってしまう」(同『異形の大国中国』)と実に具体的に米国の不満を述べているのです。


 ところが今年5月に有識者による「安全保障の法的基盤に関する懇談会」が集団的自衛権行使の容認を提言する報告書を福田前総理に手渡したところ、前総理は「中身はこれから研究する。ご苦労様でした」と言うのみで、まるで関心を示しません。一体福田前総理は防衛問題をいかに心得ていたのでしょうか。ご承知のとおりに日本の安産保障の基盤は日米同盟であります。そこにこのような欠陥があったのでは、日本の防衛体制そのものも崩壊してしまうのではありませんか。それなのに福田前総理は何と集団的自衛権の見直しに冷淡なのでしょう。おそらく前総理はこの「提言」も握り潰してしまうつもりでいたのでしょう。これまでも福田総理の政治姿勢には、国益と防衛上の視点に欠けるところがありました。しかしこうしたことを黙って許してはいけないと思います。総理が集団的自衛権の見直しに無関心であるならば、ここはぜひこの問題を運動として取り上げて、むしろ政府に強くその推進を働きかけていくべきではないでしょうか。日本にとって肝要なことは有識者による「提言」にそった見直しをはかることです。総理といえども問題を妨げることは許せません。


 日本が集団的自衛権の自縛を解いて、その権利の行使を容認することになれば、中国の脅威に対する抑止力という面ばかりではなくて、日米の信頼関係にも大きな効果が現れるでしょう。そして何よりも日米が、相互主義に基づく対等なる同盟国となれば、一方的に日本だけが、米国に守ってもらうことを許してきたような卑屈な根性を一掃することができる筈です。これは国民の国を守ろうとする気概を高めます。ぜひ集団的自衛権に一石を投じていただきたいと考えます。(美濃の臥龍)

 

(7)へ続く