風 たより
〜 第 3 回 〜

平成20年4月21日


風はほのかに季節をはこぶ 梅は百花の先駆けとなって春のおとずれをつげる、

厳しい寒さを過ごした草や木は 待ちわびた春に 大きな期待を込めて……


 冒頭となりますが、今日の社会で依然として眼に付く問題と言えば、やはり日本青年社が提唱されている倫理・道徳問題でありましょうか。政界の腐敗や官僚の不正、食品の偽装や防衛省と防衛商社の癒着など、次から次と倫理・道徳問題が発覚しています。

 “衣食足りて礼節を知る”と申しますが、戦後このかた日本は物理的豊かさを増せば増す程、逆に心の貧しさを拡大してきたようにしか、私には思えません。国民のモラルは経済的発展とはまるで相反するように悪くなるばかりで、けして物と心の関係は、衣食足りて礼儀を知るという方向には進んでいないと思うのです。経済大国となりながらも一向に改善されない倫理・道徳問題とは、何故なのでしょうか。

 戦後体制とは、米軍の占領統治から始まりました。この時マッカーサーの占領政策に便乗し、戦後体制に拍車をかけ左傾化社会を現出してきたのが共産主義一流の二分法概念でした。二分法概念とは共産主義者の常套手段で、金持ちを貧乏人、資本家と労働者、支配階級と被支配階級と言うように、物事を単純に二つに割って最後は敵と味方、損か徳かに立って断罪し、あるいは否定し、そして破壊していく手口のことです。

 教育勅語を儒教主義の古い道徳で、封建主義の魂で、民主主義の新時代に適合しないとして断罪し、廃止に追いやったのもこの手口によるものでした。同様に君民一体の道徳体系としての君主主義や、伝統・文化の蓄積からなる社会規範を古き時代の産物として否定し、民主主義の新時代に適合しないとして破壊してきたのもこの手口によるものだったのです。

 戦後体制とはこのように、日本の伝統文化や道徳体系を悉く破壊しつつその上に成り立ってきたものでした。今日の道徳の頽廃と教育の荒廃は、言わば戦後体制の結果です。元凶はマッカーサーと革新政党にあります。日教組もそうです。日本の弱体化を目指したマッカーサーの占領政策を利用して勢力を拡大しながら、戦後体制を牽引し倫理・道徳問題を引き起こしてきたのは、社共両党はじめ日教組や赤色労組だったのです。このことは憶えておきたいものです。

 戦後体制からの脱却を提唱してきた安倍前総理は、教育問題を極めて重視されていました。総理在任中逸早く教育基本法の改正とそれに続く教育三法の成立を果たしたことは、その端的な現われと言えるだろうと思います。おそらく前総理は戦後体制脱却の端緒を教育改革に求めていたのでしょう。その点倫理・道徳・品格の向上を提唱し、教育の正常化に邁進されてきた日本青年社と前総理とは、同じ危機感を共有されていたのではないでしょうか。戦後体制からの脱却という政治の方向性には間違いは無かっただけに、志半ばにして退陣されたことは真に惜しいことでした。

 私はこれからの日本は、君主主義と民主主義の調和を目指し、君民同治の新体制を確立すべきと考えています。倫理・道徳問題の根本的改善もここにあると思っているからです。戦後体制脱却後の社会もまた斯くあるべきでしょう。戦後体制とは、対立観を根底に、君主主義を否定して民主主義を唯一の根本原理としてきた社会でもあります。戦後体制からの脱却はその点から言うと、民主主義の理念を堅持しながらも君主主義を復権し、対立から協調、協調から調和へと発展していく社会の実現を目指すものであってほしいと、私は思っています。

 君主主義を民主主義に対立する存在と看做すのは、フランス革命に基づく歴史観からの観念によるもので、日本はいつまでもそのような対立観に縛られていてはなりません。われわれは一度原点に回帰して、その上でまずは天皇の有する民族的、社会的、歴史的性質に基づく君主主義の理念と、基本的人権、自由、平等などの民主主義の理念を統合し、日本の国柄に適合した指導原理を作り出していくべきでしょう。殊に経済の発展と道徳心の向上と言う、現代社会が抱える二つの課題を実現するには君主主義と民主主義の調和は欠かせない筈です。

 道徳と経済は車の両輪国家発展の二大要素です。どちらが欠けても国家の繁栄も社会の安定も実現することはできません。二・二六事件に連座して刑死した北一輝も、日本改造法案大綱の中で「人類は公共的と私利的との欲望を併有す」と、人間性の本質から見て国民道徳と自由経済併存の重要性を指摘しています。

 温故知新という格言もありますが、やはりこれからは原点に回帰して、戦後体制が否定してきた君主主義を見直していくべきでしょう。そして君主主義と民主主義の調和を図り、君主主義の持つ道徳力と民主主義の美点を融合させて、道徳と経済の両立を果たすべきです。それが衣食足りて礼節を知る道であり、物理的豊かさが増せば増す程、心もまた豊かさを拡大していく道であろうと思うのです。皆様は如何にお考えでしょうか。  
( 美濃の臥竜)


(4)へ続く