世界を救う唯一の道

平成24年1月1日

 平成24年度の年頭にあたり、本年直面するであろう日本民族の課題に対し明確な方針を提示し、その方針の下に断固とした決意と実行力を示していかなくてはならない。

 我が国が直面し、また世界中の国々が国家の安全保障上の問題として最重要視している問題は食糧=農業問題である。世界の人口が昨年11月遂に70億人を突破した。人類の歴史が何万年と続く中で、産業革命以後の増殖はすさまじく、近年の人口増加は爆発的とも言えるものであり、この50年で世界人口は倍増したのである。この異常事態に対し世界は何の対応もしないばかりか、限りある自然を破壊する事に狂奔している。今こそ「自然と共生」「環境と調和」のスローガンが必要であり、世界を救う唯一の道なのだ。



日本の農業に未来はあるのかTPPを突破口に農業再生を


 TPP(環太平洋連携協定)に参加すべきかどうかで政界は民主・自民両党とも真っ二つに割れている。世論も論壇も含めて日本国中二つに割れ、しばらくは統一したものは出て来ないであろう。

  一番大きな争点は農業問題に集約されており、それ故強力な影響力を持っているのは農協中央会であり、その力は政界に強く反映されている。この農協の力によって日本は各国とFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)を結べないできた。更に民主党政権によって個別所得保障が行われ日本の農業は保護色を強めていった。現在の日本の農業従事者の平均年齢は65歳を上回り、70歳になるのも時間の問題になっている。農業生産額も20年前に11兆あったものが現在は8兆円である。

 実は日本の農業は風前の灯火なのだ。全国には耕作放棄地が二割を占めており、自然破壊が進行しているのである。このような日本の農業の崩壊を食い止め、農業を産業として再建してゆく道は鎖国的保護政策でない事は誰もが理解できるのではないか。日本は資源の乏しい国であり、近代国家として生きていく以上輸出入による利益によって富を得る道しかない事も多くの人々の理解するところである。しかし現在の日本の貿易依存度(輸出入額をGDPで割った数字)は30%にすぎない。輸出に限れば15%である。これでは我が国の経済がジリ貧になるのは当然である。日本と似た工業国家ドイツは72%を現在も維持しているのである。


 TPPに反対している意見の中にGDPの15%しか輸出量がないのだから、15%の為に他のものを犠牲にする事はできないというものがある。しかし、この輸出額の少なさこそ問題であり、日本経済低迷の主原因は貿易量の少なさにあると見るべきではないだろうか。日本経済はGDPこそ中国に抜かれ3位にはなったがまだまだ発展途上国など問題にならない経済力があると多くの国民は思っているに違いない。しかし日本経済の実態は深刻である。現在の経済成長率があと10年続くと日本の一人あたりのGDPは韓国・台湾どころかマレーシアなどの発展途上国にも追い抜かれてしまうのである。マレーシアは米国とFTAを結ぼうとして失敗した。サービス部門の開放が難しかった為であった。しかし今回TPPに参加してその失敗を挽回しようとしているのだ。


 TPPが我が国にとって利益を与えるか否かはその内容にもよるが、貿易立国の立場がある限り避けては通れない道である事は確かである。リスクを恐れてはならない。

世界人口の爆発的増加に対応せよ

 今、全世界の人口は70億人を突破した。限りある地球が人類に対してどこまでその増加を許容するのか、私たちは知る事が出来ない。しかしその限界を迎えている事は確かである。注目すべきはそのスピードにある。僅か50年で人類は倍増したのだ。それに対応する食糧は果たして倍増しているのか。放牧によって得ていた肉類は家畜に切り替えられ、穀物の大量消費は更なる食糧不足を招いている。海洋資源は魚の乱獲により縮小している。大量の穀物生産地アメリカでも地下水位の下落により生産量の増加は見込めない。

  今後考えられる不安要素は気候の変動による世界的不作と大飢饉である。私たちは昨年千年に一度という東日本大震災を経験したばかりである。とんでもない気候の変動がないとは言い切れない。食糧安保は非常に重要な国家的課題である事は間違いない。

 人口問題が深刻な問題である事は直接生存そのものが争点になってくる事だ。すでにアフリカの各地で、明日の食糧の確保も出来ずに飢餓に苦しんでいる。人々は食糧を奪い合い殺し合いを重ね、遂に戦争にまで発展している。食糧が生存の為の絶対量を下回れば国は滅び国民は死を覚悟するしかないのである。「想定外」という言葉の意味をもう一度噛み締めてみようではないか。震災だけが、原発だけが想定外な事態を引き起こすとは限らない。天候不順や地球温暖化現象によって世界的な食糧不足はいつ起きても不思議ではないのだ。

戦後体制の打破こそ改革の道

 すでに日本国民は現状の推移によっては日本の農業に未来はない事を知っている。農業従事者の高齢化はその事を物語っている。戦後GHQによる「農地解放」はただでさえ小さな日本の農地を細分化させる事に成功し、アメリカの大型農業に太刀打ち出来ない体制にしてしまったのである。

  農業で生活できなくなった農村の若者は大都市に集団就職し我が国の工業基盤を作り上げ、経済大国日本を短期的に出現させた。アメリアによる日本弱体化を逆手に取り、農業と軍事力を犠牲にして築き上げた戦後体制は小児病的体質の経済大国日本を作ったのだった。それ故日本農業の弱点は田畑の効率的集約、規模拡大が出来ないところにある。農地を農業生産の為の用地と見るのではなく財産と見てしまい、長子相続によってそれなりに守られていた農地を子供に平等分配する事により細分化に拍車をかけ、農業を産業として成立しなくさせてしまった。この農地は農地法によって固定化され、自由な売買が出来なくなっている。

  つまり日本の農家は狭い農地で高い肥料や機械を使い単価の高い農作物を作り出す。国や消費者(国民)はそれらを消費し農家を支えているが、農家は最低ラインの生活を強いられている。誰も日本の農業によって利益を得ていない。もし利益を得ているとするとそれは農協中央会で、この農協中央会といえども不当利益を得ている訳ではない。独占的農家支配を行っているが独禁法の適用除外になっており、違法活動ではない。零細農家にとっては救いの神になっている地域もあるに違いない。しかし日本の絶望的農業を保守し、展望のない農業に基盤を置いている団体が農協中央会である事は間違いない事実である。

  今回のTPP問題で日本の農業問題の全てを解決する事は出来ないであろう。しかし農地法の改正や農協の自由化などを通じて若者が続々と参入出来る農業改革は可能であり、それを行わなければ食糧問題の解決への道が拓けないのである。

 現在小規模農家の米の生産原価は一俵(60kg)1万4千円とされている。政府が農協を通じて買い上げる価格もほぼ同額である。しかし15ヘクタール以上の農家は6千円以下で生産出来るという。米の国際価格は3千円前後であるから、本気で米作りを行えばコメが輸出産業の主力になる事も夢ではない。

 野田佳彦首相はハワイ・ホノルルで開かれたアジア太平洋経済協力会議で、TPPへの交渉参加を表明し日本の方向性を示した。この日本の動きはカナダ、メキシコの参加表明という呼び水になり「貿易自由化の新しい流れ」を作り出した。交渉参加を表明している国だけでも世界のGDPの4割になり、世界最大の経済連携協定になる。貿易で生きてゆく日本の国益はこのTPP参加にする事で守る事が出来る。世界の孤児になる道を選ぶ事は現在の経済の失速を更に深刻な状態にする事になり、未来を拓く事は出来ないであろう。自民・民主両党の中にも反対論が根強いようだが、国益と日本の未来の為に国論を統一して交渉の後押しをしなければならない。