米・中経済の動きを見据える必要がある

平成18年 4月03日


 昨年から米・中両国の経済貿易における一連の問題が頻繁に議論されていたが、中でも目立つのは貿易赤字の問題である。米国側の統計によると、対中赤宇は一九八三年の3億ドルに始まり、二〇〇三年には一二四〇億ドルになった。また二〇〇〇年には、中国は日本に代わり米国最大の貿易赤字相手国になった。

 ただ実際のところ、米国の貿易赤字問題は今さら米・中貿易に限ったことではない。一九七六年以降、米国は一貫して貿易赤字が続いている。赤字額は一九八三年の時点で六七一億ドルに上り、一昨年は五四九二億ドルに達した。二三一の貿易相手国(地域)のうち、貿易赤字相手は一二三に上る。米国の対中赤字は、米国の貿易全体の赤字激増に伴って生まれたものだ。米国の対中赤字の特徴を見てみよう。


 中国の対米輸出は労働集約型製品の加工貿易が主体だ。技術的価値の低い情報関連製品、玩具、靴類、ファツション製品などが中心で、大部分は米国内での生産がすでに中止または縮小されたもので、米国の消費者にとっては広く歓迎される必需品だ。米国側の統計では、中国は米国の三番目の貿易相手国であり、六番目の輸出相手国、二番目の輸入相手国だ。最近、米中貿易全国委員会は、米国が中米貿易から大きな利益を得ていることを認めた。米国は長年、経済構造の改革に力を入れることで大きな成果を上げており、高付加価値製品の生産に力を入れる一方、それ以外の産業を発展途上国・地域に移転させてきた。これは米国に有利であり、米国による構造改革の主旨にも添うものだ。米国企業は中国市場に依存することで世界的な競争力を維持しており、中国の輸出製品の一部は米資企業が生産し、米資企業に莫大な利益をもたらしている。同時に、低価格・高品質の中国製品も、米国の消費者に大きな利点を与えている。

 注意しなければならないのは、中国側の貿易黒字は主に加工貿易によってもたらされ、輸出の多くは外資系企業によるもので、中国側が実際に得る利益には限りがあることである。米国は世界規模で生産要素の再調整を進め、一部の低付加価値製品の生産・製造拠点を中国に移転し、中国の労働力資源の優位性を利用して加工した製品を米国に再輸出するようになった。また、一部の米多国籍企業が、従来型の輸出モデルをやめ、中国に直接工場を設立して製品を現地で販売するようになったため、対中直接輸出が相対的に減少している。このほか一九八〇年代以降には、周辺の国や地域が、労働集約型産業や対米貿易摩擦が深刻な製品の加工・組立工程を中国に移転し、中国に原材料や部品などを輸出したうえで、加工・組立された製品を米国や欧州各国に再輸出するようになった。こうして対米貿易黒字が中国に移転された。

 現在の為替レートは元の実勢価格を反映していないという理由から、米国は中国に対して元の切り上げを要求し、中国はわずかながら実行した。日本政府も、この米国の要求には反対しなかった。しかし、ことは単に米・中関係だけの話ではない。元が切り上げられれば、われわれが今まで享受してきた中国産の食料品や雑貨等が値上がるのは必至であり、さらに上記でも述べたように、中国産品の利益を被ったのは、欧州も同じである。

 一方、中国は巨大な市場であり、その市場を考えた場合、元の切り上げが有効であることは当然であるが、それがまた中国をめぐる新たな問題の発生につながりかねない。こうした米国を中心とする世界経済システムの勝手ないじくり回しに、われわれは何度も苦渋を飲まされてきたではないか。

 われわれは米国が主導しているから悪い、といっているのではない。悪いのは自国に有利なことなら、他国の迷惑を顧みない、顧みないどころか、それが世界経済全体のためだと嘯く、米国政府のいつものやり方なのである。ここは、米国のソフトランディングがあるかどうか、ともに東アジアの一員として、この米国のやり方に注目していこう。