『肥料と土づくり』

 

平成13年6月5日
日本青年社 群馬県本部 須 賀 和 男

 現在の農業は、大量の農薬と肥料で無機質化している。有機農法のためには堆肥が必要であるが、畜産と農産が分業化している今日では良質な堆肥自体が作れない。

 野菜を育てるために、どうしても必要な肥料養分というものがあります。これが「肥料の3要素」といわれるN、P、Kですが、これらは土の中に少なく、どうしても補給しなければならない栄養素です。

 農作物が育つために必要な栄養素は、(N)チッソ、(P)リン酸、(K)カリウムの3つで、チッソは野菜の茎や葉をつくり、葉色を濃くして生育を促進する役割をもっています。どの種類の野菜にも必要なものですが、特に葉や根を食べる葉物野菜や根物野菜には欠かせない要素です。リン酸は目に見えて効果のわかるものではありませんが、冬を越すタマネギ栽培には欠かせないもので、根張りをよくし、寒さに対する抵抗性を高めます。トマトやスイカなどの実をならす野菜には特に大切で、味をよくし、また、タネを充実させる役目があるのでタネとりのときには欠かせない養分です。 カリウムは茎や葉を丈夫にする働きがあるので、特に茎が長く伸びる果菜類に必要ですし、葉物野菜にも不足すると葉が折れやすくなります。

 3大要素にあと2つ加えて5大要素とする場合、その2つは石灰とマグネシウムをさします。石灰(カルシウム)は野菜の多くはアルカリ性で、どの野菜もよく石灰を吸収します。夏や高温状態で栽培する温室栽培などでは、トマトやレタス、セロリなどに石灰欠乏症がでることがある。トマトでは、果実が黒くなって腐ってしまいます。レタスやセロリでは、芯の葉が黒くなって生育が止まってしまったり、葉の緑が黒くなって枯れてきます。マグネシウムは葉緑素を形成し、不足すると古い葉脈間が黄変します。  



  かつての農家を思い起こせば、じつに身近な生命サイクルの中で人間が生きていたとういことがわかる。

  家畜や人間の排泄物は堆肥の原料となり、その堆肥を微生物が分解し、農作物の生育に必要な栄養素として生成する。この単純なサイクルでほぼ自給自足できていた。昔から「四里四方のものを食べよ」というのは、人間も同じ生命サイクルの中の一部分であり、そこ生きている人間にとってその地「土着」のものを食べることが最善であるということである。作物は無機物を栄養にして生きられる。昔は稲わらや家畜糞尿などの有機物を、微生物の力を借りて窒素やリン酸などの無機物にして作物に吸収させていた。ところが戦後、無機の化学肥料が安く大量に生産できるようになり、微生物を必要としない傾向が一般になった。しかし、そうなると化学肥料をやりすぎるようになり、硝酸態窒素による地下水汚染など、さまざまな環境問題が起きている。そこで、化学物質をできるだけ排除した有機農業をめざす流れが出てきて、もう一度、微生物の力を借りようということになった。

 そもそも従来の農業は、太陽光と水、そして土壌が必須要素で、いずれも気象条件や自然環境の差異によっていちいち左右され、生産は不安定そのものである。生産が不安定であるがゆえに、化学肥料を投じ、農薬を駆使することになる、そのために農地は疲弊し、連鎖障害も避けられない。かといって旧来形の農業に固辞するかぎり、安定的に大量の生産をあげるには化学肥料や農薬に依存せざるをえない。ここで浮上してくるのが、農産物の安全性の問題です。

 一般に健康指向が強まり、近年農産物に対する安全性の関心が高まっており、消費者が野菜について知りたい情報では『安全性』をあげているという。鮮度や価格に優先して安全性を求めている。こうした実態をうけて農林水産省では無農薬ないし減農薬、あるいは有機栽培についての統一規格と表示のガイドラインを出して、これを推進する方向にあるが、人々の農薬づけの農業に対して不信感は根づよい。

 実際に農薬を使わなくても、灌漑水をとおして、あるいは古くから土壌中に残留しているもの、空中散布や隣地で散布したもの工場や家庭から排出されたものなどの各種の有害物質が植物体に含有されてしまう。加えて農業従事者の高齢化が著しく、また農作物が過酷な労働を余儀なくされ、それに応じた収益が得られないこともあって魅力に乏しく、後継者難は深刻である。